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独自研究

デモ指数:カナダ反ワクチン義務化デモに見る家族システムとデモ

 

カナダのトラック運転手による反ワクチン義務化デモ1Freedom Convoy 2020 と呼ぶらしい。1月15日に(アメリカからの)再入国時のワクチンパスポート提示が義務化されたことに抗議して始まった。裁判所の解散命令後も続いていたが2月13日までに警察が強制的に解散させた模様。世界各地に飛び火があったが、一番激しい連帯の動きを見せたのはフランスとベルギーだった。

カナダ、パリ、ブリュッセル。どこも、フランス的な平等主義核家族の匂いを感じさせる地域である。デモの発火点であるオンタリオ州はフランス語話者の多い地域。ブリュッセルは、平等主義核家族ではないが、相続慣習の平等性が確認されている地域である(エマニュエル・トッド『新ヨーロッパ大全I』(藤原書店、1992年)58頁参照)。大変興味深いので、かねてから温めていた(家族システムに基づく)「デモ指数」を算出してみることにした。

1 算出方法

デモとは、①権威に対する抵抗の意思を、②市民たちが連帯して、③公共の場で表現する行為である。

そこで、家族システムとイデオロギーの相関性に関するトッドの定式を用い、①~③を以下のように数値化した。

①親子関係:自由主義的→1点 権威主義的→0点

親子関係は縦型の権威関係の有無を指示する。この文脈では、親子関係の自由主義は権威に対する異議申し立てが容易であることを示し、権威主義は困難であることを示すと考えられる。

②兄弟関係:平等→1点 不平等または非平等→0点

兄弟関係は市民同士の関係性を指示する。兄弟関係の平等は市民間の平等、この文脈では連帯の形成の容易さを示し、不平等は市民間の不平等すなわち連帯の困難さを示す。

③婚姻システム:外婚制→1点 内婚制→0点

婚姻システム変数のこのような使い方は私の独自解釈であることをお断りしておく。

私の考えでは、婚姻システムの外婚制と内婚制は、感情表現や意思表示の在り方と大いに関わっている(さしあたりこちらを参照)。

外部の人間と関わらなければ婚姻できないシステムの元では強く明確な意思表示・感情表現が一般化し、近親との婚姻が許され比較的狭いコミュニティ内部での婚姻が一般的なシステムでは、強く明確な意思表示・感情表現はむしろ忌避されるという考えに基づき点数化した。

2 デモ指数

絶対核家族:親子関係は自由主義的であり、権威に異議申し立てをする能力は高いが、兄弟関係の平等には関心がなく、連帯はさほど得意ではない。

平等核家族:親子関係は自由主義的、兄弟関係は平等。市民が連帯して権威に物申すという、デモに最適なメンタリティを持つと考えられる。

直系家族(外婚):親子関係の権威主義、兄弟間の不平等から、デモへの指向性は低い。しかし、意思表示の傾向は外向的(外に向けて明確に表現する傾向)なので、内婚直系家族よりはデモ力が高いといえる。

直系家族(内婚):親子関係は権威主義的、兄弟間は不平等である上、意思表示の傾向は内向的(外向きの明確な表現を好まない。というか「しない」)。デモへの指向性は最も低い。

共同体家族(外婚):縦型の権威が非常に強い一方で、兄弟は平等であり、意思表示傾向も外向的。「いざ」というときには連帯して行動できるメンタリティ。

共同体家族(内婚):縦型の権威が強いが、兄弟は平等。意思表示傾向は内向きと思われるので、デモ指数は下から二番目。

3 所感

デモが一番得意なのがフランスで、一番苦手なのが日本という非常に納得できる結論になりました。

ちなみに、直系家族で内婚制(いとこ婚が認められている)なのは、これまで明らかになっている地域の中では日本だけです。

デモが活発でないことが、日本に民主主義の弱さの表れのように言われることがありますが、多分そういうことではない。フランスと日本では、違うシステムの民主主義が通用しているということなのだと思います。

デモが活発になることはよいことだと思います。しかし、この「デモ指数」の低さは、日本社会にとっては所与の前提と考えなければなりません。より自由でより民主的な社会を目指すわれわれとしては、日本社会のシステムを受け入れた上で、多くの人が容易に実行できる方法を考えていくのが建設的だと思います。

私の腹案は後日。

(2022年2月 satokotatsui.com 初出)