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独自研究

キューバの謎

キューバは、外婚制共同体家族グループの一員である。ロシア、イタリア中部、中国、ベトナム(の一部)と、見事に共産圏(イタリア中部は共産党が非常に強かった)の地図と重なり、トッドに「家族システムとイデオロギーの相関性」に関する「啓示」をもたらしたグループだ。

共同体家族の成立の鍵となったのは、騎馬遊牧民の存在であることが分かっている。中国もロシアも、そしてイタリア中部も、匈奴やモンゴル、アヴァールなどの遊牧民との接触を経てそのシステムを形成した。ベトナムの場合は、中国からの伝播であろう。(以上については、こちらこちらをご覧ください)

でも、キューバは?

ということで、調査を開始した。

キューバはクリストファー・コロンブスが「発見」、上陸し、航海のスポンサーであったスペインの領土と宣言した土地だ。

「その後は主にスペイン人が入植したはずだから、スペインの一部に共同体家族地域があって、それが移植されたのかもしれない」と思って調べてみたが、トッドの本によると、スペインには共同体家族の地域はない。

そこで、「ポルトガルは?」と思って調べてみると、いろいろと興味深いことが分かった。

ポルトガルの南部には、共同体家族「的」な家族システムの地域がある。同居の規則は共同体的ではないので、共同体家族とはいえない。しかし、「親子関係の特殊な権威主義」と「兄弟間の極めて厳格な平等主義」の組み合わせであり、イデオロギーは完全に共同体家族のそれと一致する。果たしてこの地域は共産党の得票率が極めて高かったことで知られている。

『新ヨーロッパ大全II』164頁

そして、この地域には「キューバ」という町があるのである。

Imagem criada por Rei-artur, em Janeiro de 2005, a partir do mapa Image:Mapa de Portugal.svg.

中南米の国名「キューバ」の語源は、原住民のインディオの言葉から来ているというのが通説のようだが(wiki英語版によると大した証拠はない模様)、ポルトガルの「キューバ」から来たとする説も存在する。その説は、イタリア出身とされているコロンブスは実はポルトガル人であり、出身地である「キューバ」に因んで、新たに発見した土地を「キューバ」と名づけたのだ、とするのである(ポルトガルのキューバにはコロンブスの銅像があるらしい)。

Estátua de Cristóvão Colombo, Cuba, Alentejo

コロンブスがキューバ(ポルトガル)出身なのかどうかは私には分からないが、コロンブスの後、ポルトガル出身の人々がキューバに入植してキューバを作ったと考えることはさほど不自然ではないように思われる。

何しろ、キューバ(ポルトガル)を含むポルトガル南部はイベリア半島で唯一の共同体家族的システムの土地であり、キューバ(国)は、スペインとポルトガルが分け合った南米において唯一の外婚制共同体家族の国なのだから。

ちなみにポルトガルの方の「キューバ」は、アラビア語のqubba(墓廟)が語源とされているらしい。イベリア半島は長らくイスラム王朝の支配地域であったから、その痕跡がポルトガルに残っていてもおかしくはないだろう。ポルトガル南部の共同体「的」システムが、母系制であるというのも、初期のアラブ文化との関係を思わせないでもない。

ともかく、アメリカ合衆国の直近の島が強固な共産主義国家になるといった事態は、こんな風なことによって生じたに違いないのだ。