- はじめに:2022年の常識
- 1 地球が生まれ、月が道連れになる(46億年前)
- 2 生命が生まれ、最初の「大進化」を遂げる(約39億年前〜20億年前)
- 3 多細胞生物の登場(約10億年前)
- 4 「捕食」のはじまり
- 5 捕食が知性を生んだ (脊椎動物の登場、約5億2000年前)
- 6 生物の興亡ーー絶滅と進化
はじめに:2022年の常識
この講座の目的は、タイトル通りに真実を知りたい方々、そして「戦略の練り直し?面白そう!」という能天気な方々に、自分なりに真実を探り、戦略を練り直すのに役立つ「道具」として、エマニュエル・トッドの理論をお伝えすることにあります。
開講の準備のために、トッドの理論を一通り復習した後、私はなぜか、地球誕生から、生命が生まれ、人類が狩猟を始めるまでの歴史を勉強していました。
たぶん、理由は二つあったと思います。
一つは、人間社会の仕組みを解明するトッドの理論を学んだ結果、「人間ってどういう生物種なんだろうか?」と考えるようになったこと。
もう一つは、「戦略の練り直し」にあたって、トッドの理論の射程外の事柄も知りたくなったことです。
トッドは、2000年期後半に起きた「近代化」という事件のメカニズムの解明によって、社会と人間に関する理論を打ち立てましたが、彼の理論の射程には、後期旧石器時代以降の数万年分の人類の歴史が収められています。
しかし、2000年代に入って20年以上が過ぎ、20世紀末から引きずった問題群に、パンデミックやら気候変動やらがつけ加わっていく様子を見るにつけ、
「この先の戦略を練るには、後期旧石器時代からの歴史でもちょっと短いんじゃないか」
という気がしてきたのです。
そう思って調査してみると、20世紀後半の自然科学は、地球の誕生から人類史の始まりまでに何があったのかを「そんなに?!」という程度に明らかにしていました。
解明されたのが最近すぎて、まだ一般常識に書き込まれていないのがもったいない。非常に根源的な事実たちです。
人類の社会に関するトッドの理論、地球、気候、生命の歴史、これらは、21世紀中盤を生きていく人々に向けた「社会科」の教科書にもれなく記載されるべきものだと、私は思いました。
というわけで、地球が生まれて、私たちの先祖が「人間らしい」人類になるまでの歴史、2回シリーズの第1回です。
(番外編に関する注意事項)
・教科書口調で断定的に書いてある部分がありますが、全て複数ある仮説の中の一つです。
・なるべく通説やそれに準じるスタンダードな説に準拠するよう努めましたが、同時に、新しい発見や学説で説得力があると専門家が見ている(らしい)ものがある場合には、なるべくそれを取り上げるよう心がけました。
・年代(約○年前、とか)については、現状でもどの辺が通説か分からないくらい各種文献に幅があるケースが多く、新しい発見によってつねに書き換えられている事項でもありますので、そのようなものとご理解ください。
・教科書的な書籍のほか、日本語版、英語版wikipediaを大いに活用しました(とくに日本語版のwikiは項目による信頼度の差が激しいですが、自分なりに評価をした上で利用しました)。
・新しい学説はなるべく出典がわかるようにしています。純粋に読者の便宜のためなので孫引きご容赦ください(目を通していない文献には(未)と記載します)。
1 地球が生まれ、月が道連れになる(46億年前)
地球はずっと存在していたわけではありません(当たり前ですか?)。宇宙の中である特定の時期に生まれ、生まれた年代まで分かっているそうです。
宇宙には空気のような気体(ガス)や細かい塵(ダスト)が大量に漂っている場所があるそうです。約46億年前146億という数字ですが、私は住宅価格を手がかりにすると何とか想像できます。地方都市の建売住宅が3000万円、都内の高級マンションが1億、超高級マンション10億、ニューヨークの超高級マンションは100〜200億円。人類の全文明史は5500円です(笑)。そのような場所の一つで、ガスやダストの密度が高まり、まず太陽が形成されます。その同じ勢いで、周囲を回るガスやダストがさらに集まってまとまり、太陽系の惑星(現在の惑星の定義では、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の8個)になりました。地球は太陽や他の惑星たちと同時に生まれたわけですね。
惑星が形成されるまでには、出来立ての原始惑星同士が衝突を繰り返しながら成長していく過程があります。地球の場合、10個程度の原始惑星が衝突を繰り返してできたと考えられているそうです。その最後の衝突のときに、月が生まれました。
最後に衝突した惑星をギリシャ神話の女神の名をとってTheia(テイア)と呼びます(視覚・光の女神とか)。Theiaが地球に衝突したとき、当時マグマの海であった地球の表面と壊れたTheiaの一部が弾け飛び、地球の軌道上で一つにまとまって月になりました。
→ 月形成のシミュレーション動画はこちら(国立天文台ウェブサイト)
https://www.nao.ac.jp/gallery/weekly/2016/20160628-4d2u.html
Theiaの衝突と月の誕生は、現在の地球環境を決定づけたキーイベントの一つといえます。すごく重要なのです(当たり前でしょうか)。
まず、地球誕生当時、一日の長さ(自転周期)は3〜6時間程度と大変短かったのですが、月の引力によって引き伸ばされた結果、現在の24時間になりました。
もう一つ、地球の地軸は公転軸(太陽)に対して約23.4度傾いていますが(たしかに地球儀は何かちょっと斜めについてますね!)、この傾きも月が衝突したときに生じたといわれているのです。
*地球ができた当初から傾いていたと考えてもおかしくはないそうですが。
地軸の傾きは、気候の変化と大きく関わっています。
まず、季節があるのは地軸の傾きのおかげです。地球のてっぺん(北極点)が太陽の側を向いているときが北半球の夏(南半球の冬)、太陽の反対側を向いているときが北半球の冬(南半球の夏)です(ぜひこちら(↓)をご覧ください)。
https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/resource/tenmon/space/earth/earth05.html (国立科学博物館 ウェブサイト)
さらに、地軸の向きと傾きの変化は、公転軌道の離心率の変化*と相まって、長期の周期的な気候変動をもたらすことにもなったのです(発見したセルビア人科学者の名前を取って「ミランコビッチ・サイクル」と呼ばれます)。
*地球の公転軌道はほぼ完全な円から楕円になりまた円に戻るという動きを10万年周期で繰り返しています。離心率の変化とは楕円の歪み具合の変化のことで、それによって公転時の地球と太陽の距離が変わるので気候に影響を与えます
長期の気候変動が、生物の誕生や進化、人類が生まれた後は人類の歴史に、どれほど大きく関わっているかは、次項以降で(断片的にですが)紹介します。
でも、何ていうんでしょうか、とにかく、バクテリアが宇宙の一部であるなら当然人類も宇宙の一部なので、気候や地形の変化と人類などの生命の帰趨は一体なんだな、と私は感じます。
***
話は戻りますが、太陽や地球が生まれたときにすでに存在していて、太陽や地球の材料になった「ガスやダスト」というものは一体どこから来たのか、というと、それらは、寿命を終えた星が崩壊して溶け出したり、爆発したりした後に残った残骸なのだそうです。
宇宙では太陽や地球のような星や惑星系そのものが、何十億年という単位で、消えたりできたりを繰り返しています。50億年という気の遠くなる期間の後だとしても、地球もいずれ太陽と一緒に寿命を終え、次に生まれる他の星の材料になるということは、ほぼ間違いのない事実といえると思います。
🔹「46億年」の計算方法
ところで、いったいなぜ「46億年前」なんてことが分かるのでしょうか。過去の事象についてかなりの精度で年代を推定する手法が確立されたことが、20世紀後半のブレイクスルーをもたらした大きな要素なので、二つの主要な方法を(ごく簡単に!)ご紹介したいと思います(関心のない方は遠慮なく飛ばしてください)。
①放射年代測定
物質の元素の中には、一定の速度で放射線を出しながら崩壊していく性質を持つものがあるそうです(放射性元素)。これをストップウォッチ代わりにすることで、物質が形成された年代を測定するのが放射年代測定という手法です。
例えばウランの一種であるウラン238は、放射線を出しながら崩壊して最終的に鉛となって安定します。要するに少しずつ鉛に変わっていくのですが、ウラン238の場合、半分が崩壊して鉛になるまでの時間(半減期)は44億6800万年であると分かっています。したがって、ウラン238が含まれている鉱物に関しては、その崩壊の程度を測定すれば、鉱物が結晶化してからどれだけの時間が経過しているかが分かるのです。
この手法は鉱物だけでなく、生物の化石に含まれる炭素(炭素14の半減期は5730年)にも使うことができ、生物の年代測定に役立てられているそうです。
②分子時計
放射年代測定が元素の変化を時計として利用し、鉱物や化石の年代を測定するのに対し、分子時計は、生物の分子構造の変化を時計(ストップウォッチ)として利用することで、生物種の誕生(進化)の年代や特定のイベントからの経過時間を測定します。
例えば、生物のDNAは複製の際に起こる突然変異によって変化していきますが、突然変異の発生頻度は概ね一定であると考えられています。変異の発生頻度を測定することで、進化の系譜を明らかにしたり(相違点が少ないほど類縁度が高く多いほど類縁度が低いことを示します)、分岐にかかった時間を算出したりすることができるわけです。
この後、生命の誕生、進化の過程の一部、人類の誕生などについて、その時期とともにご紹介していきますが、それらを明らかにする過程でも、放射年代測定や分子時計の手法が用いられています。
2 生命が生まれ、最初の「大進化」を遂げる(約39億年前〜20億年前)
地球で確認された生命の痕跡のうち、現段階で最も古いものとされるのは、海中の微生物(バクテリア(=細菌))の一種で、約39.5億年前のものだそうです。地球誕生から6億年余りで生命が誕生したことになります。しかし、目立った進化はなかなか始まりません。しばらくの間(というのは、20億年くらいです)地球上の生物は海を漂う細菌状の生物(原核生物)だけという状態が続きました。
初めての大きな変化は、約20億年前に起こります。真核生物(核を持ち、細胞の中にミトコンドリアや葉緑体などの器官を持つ生物)の発生です。ミトコンドリアや葉緑体はそれぞれ元は単体の生物だったそうで、原核生物同士がくっついたり、機能を分化させて共生関係を築いたりすることで、真核生物への進化が起こったということらしいです。
なぜ20億年前にこのような進化が起きたのか。
ほぼ争いがないのは、約24億年前に地球上の酸素濃度が急上昇した事件(「大酸化イベント(Great Oxydation Event, GOE)」)と関係があるという点です。これにより地球上の環境が激変し、環境の変化に適合した進化(変異)が生じたと。しかし、その酸素濃度の上昇がどのようなメカニズムで起きたのかについては、議論があるようです。
なぜ急に酸素が増えたかなんて、超大事なポイントじゃないか!
と私は思うので、ちょっと深入りさせていただきます。
一般向けの解説書などでよく見られる説明は、生物自身の光合成によって酸素が蓄積した、というものです。初期のバクテリアは光合成の能力を持ちませんが、砂岩に付着した痕跡から、約35億年前には光合成を行う種(シアノバクテリア(上の写真))が発生していたそうです。彼らが地道に酸素を放出し続けた結果、酸素が蓄積して大酸化イベントにつながったと。
私が最初に読んだのがこのタイプの説明で「なんて地道なんだ・・」と感動したのですが、もう少し調べてみると、これだけで説明するのはちょっと無理があるようです。
シアノバクテリアたちの光合成が関わっていることは間違いありません。しかし、シアノバクテリアが発生したとされる35億年前からGOEが起きるまでの15億年の間、大気中の酸素濃度はほとんど増えていないことが、調査の結果分かっているそうなのです。なぜ酸素濃度の上昇が15億年後になってようやく起きたのか。この点はたしかに説明が必要です。
二つの仮説を紹介します。
①プレート運動仮説
プレートテクトニクスという言葉を聞いたことがあるでしょうか。地球の表面は何枚か(現在は15)の岩盤(プレート)で構成されており、このプレートの動きによって大陸の離合集散や地震などが発生するという考えが、現在の地球科学の主流になっています。第一の仮説は、プレート運動によって地球表面の素材が変わったことに理由を求めます。
光合成生物が生まれた35億年前、地球の表面は苦鉄質岩という鉱物で覆われていました。この鉱物は酸素を取り込む性質を持つため、シアノバクテリアが放出した酸素は苦鉄質岩に取り込まれてしまっていた。
しかし25億年前に始まったプレート運動により、地球表面の物質が酸素を取り込まないタイプの花崗岩などに変わります。これによって、光合成による酸素が大気中に蓄積するようになり、20億年前に一気に濃度が上昇したのではないか。というのがこの仮説です。
https://univ-journal.jp/7294/
私は 横山祐典『地球46億年気候大変動』(講談社ブルーバックス 2018年)で読みました。
②スノーボール・アース仮説
地球の気候に氷河時代と呼ばれる寒冷な時期があることはよく知られていますが(ちなみに現在は第4氷河時代の中の間氷期(温暖期)です)、その極致として、地球全体が完全に凍ってしまったことが、過去に少なくとも3回あったと考えられているそうです。
地球初の「全球凍結(Snowball Earth)」が起きたとされているのが、約22億2000万年前。大酸化イベントと近い時期なのです。順序およびメカニズムについては複数の考え方があり、A、Bの双方が主張されています。
A 全球凍結終了→大酸化イベント→真核生物誕生
B 大酸化イベント→全球凍結→全球凍結終了→真核生物誕生
ともかく、全球凍結が引き起こした環境の激変を重視するのが、この仮説です。
https://www.pnas.org/content/117/24/13314
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2015/13.html
①と②の仮説は必ずしも相互に矛盾するわけではありませんし、どちらが妥当かを検討するのはこの講義の目的ではありません。
これらの仮説が示しているのは、生物の進化には、地球のプレートの動きや気候変動による環境の変化が大きく関わっているのだということです。私たちとしては、この点だけを確認して、先に進みましょう。
3 多細胞生物の登場(約10億年前)
①原核生物→真核生物
②単細胞動物→多細胞生物
③無脊椎動物→脊椎動物
生物の進化のうち、「大進化」と呼ばれて重要視されているのが、①から③の3つです。
先ほど(20億年前)真核生物が誕生しましたが(①)、彼らはまだ単細胞でした。10億年前になり、生物の多細胞化(≒複雑化)が起こります。
「カンブリア大爆発」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。その名も「顕生代」(「生命が現れた時代」の意)の始まりであるカンブリア紀(5億4100万年前〜)に生物が爆発的に多様化したことを指す言葉です。この時期に「大爆発」といえる現象があって、現在生息している動物のグループがほぼ出揃ったのだ、という学説としてよく知られています。
*スティーブン・ジェイ・グールドのベストセラーで有名になったとか。私は全く知りませんでしたが。
カンブリア紀に「大爆発」といってよい現象があったことは事実のようです。しかし、現在ではより研究が進み、多様化の過程はそれ以前から始まっていたことがわかっています。
下のジオラマは、エディアカラ生物群と言われる化石群を模したものです。1946年にオーストラリアのエディアカラ丘陵で発見されました。この化石群の生物たちはおもしろくて、ふわふわしたパンケーキのような生物や、ミミズのようなくねくねした生物など(すべて水中生物です)、何ともいえない不思議な形のものばかりでした。しかも、非常に多様だったのです。
これは「カンブリア以前」の生物相を明らかにする重要な発見でした。カンブリア紀の生物の化石は、非常に多様で、よく保存されていましたが、謎というか、おかしな点が一つありました。甲羅や殻、しっかりした骨格などを持った「硬い」生き物ばかりだったのです。
生物の多様化がいきなり殻を持った生物から始まるとは、考えにくいですね。カンブリア紀の生物のように甲羅や殻や骨格を持つということは、化石として保存されやすいということですから、その前には柔らかい、保存されにくい生物がいたのではないか。
そのやわらかい生物たちを保存していたのがエディアカラ生物群でした。エディアカラの岩石層での発見以降、世界のさまざまな場所で同時期のやわらかい生物たちの化石が見つかり、真核生物からカンブリア紀までの空白が埋められたのです。
そういうわけで、現在では、次のように考えるのがスタンダードになりました。
「約10億年前に生物の多細胞化が始まり、エディアカラ紀には多様な無脊椎動物(やわらかい動物です)が生まれていた。しかし、そのほとんどはエディアカラ紀の終わりに絶滅し、カンブリア大爆発を迎えた。」
4 「捕食」のはじまり
それはそれとして、カンブリア紀(5億4100万年前〜)に「爆発的進化」が起きたことは事実です。この進化は何によってもたらされたのでしょうか。
最近まで、この時期の爆発的進化の原因も、酸素濃度の上昇であると考えられていたようです。この少し前(7億年前と6.5億年前の2回)に起きたとされる「全球凍結」との関連性も指摘されています。ただ、海底堆積物を調査したところ、そのときに起きた酸素濃度上昇の規模はさほど大きいものではなかったらしい、ということで、新たな仮説が提唱されるようになりました。
捕食(肉食)開始説です。
「捕食」ってちょっと分かりにくいですが、要するに、 生物の中に他の生物を食べる輩が現れた、ということです。
この説によると、エディアカラ紀からの流れはこうなります。
「エディアカラ紀の終わり頃、生物の中から他の動物を食べる捕食者が現れ、やわらかい生物たちは食べられて絶滅した。危機的状況の中で生物の爆発的進化が起こり、甲や殻、骨格を持つよう進化した者たちが生き延びた。」
酸素濃度の上昇は、この説にとっても意味を持ちます。
現代の海でも、酸素の少ない海域には、エディアカラ紀と同様、動かずにただ浮遊し、微生物を食べて生活する生物しかいないのだそうです。それが、酸素濃度が一定量を超えた海域では、活発に動く生物が中心になり、他の動物を食べる捕食者も登場するらしい。カンブリア爆発直前の時期に起きた酸素濃度の上昇がごくわずかであったとしても、それによって捕食者が現れ、進化が大きく促進されることは十分に考えられるのです。
https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v13/n5/カンブリア爆発の「火種」/74330
なお、ここまでに出てきた生物たちは全員、まだ海の中で生息しています。カンブリア紀に入った後もです。動物の中で初めて陸上に出たのは、ヤスデに似たルックスの節足動物で、約5億3000万年前のことだったそうです。
私の読んだ文献の中には、彼が海を出た理由を述べるものはありませんでしたが、「捕食から逃れるため」というのは、それなりに合理性のある理由のように思えます。
5 捕食が知性を生んだ (脊椎動物の登場、約5億2000年前)
生物最後の「大進化」は、約5億2000年前*、カンブリア大爆発の後期に起こります。脊椎動物の登場です。
*Shu, D-G.; Luo, H-L.; Conway Morris, S.; Zhang, X-L.; Hu, S-X.; Chen, L.; Han, J.; Zhu, M.; Li, Y.; Chen, L-Z. (1999). “Lower Cambrian vertebrates from south China”. Nature. 402 (6757): 42. (未確認)
「脊椎動物」とは「背骨がある動物」という意味ですが、脊椎動物の特徴はそれだけではありません。中枢神経系(脳と脊髄)、左右対称で頭部・胴部・尾部に分かれた身体、酸素を効率的に運ぶヘモグロビンを含んだ赤い血液などを備えた動物、それが脊椎動物です。
最古の脊椎動物である魚類のほか、両生類、爬虫類、哺乳類のすべて、つまり、動物の中で最も大きく、移動性が高く、知的な種類の一群が、このとき現れたわけです。
カンブリア紀に、甲や殻を持つ生物が発達し、その延長で脊椎動物が誕生したという事実は、前項でご紹介した「捕食開始説」の説得力をより高めています。
大きさ、移動性、知性、それらを支えるための赤い血液といった特性は、海中を漂って微生物を食べている間はまったく不要です。しかし、生物の間に捕食者が現れ、「食うか食われるか」が生物界の掟となった暁には、大いに必要なものばかりです。
捕食が始まった世界を生き延びるために知性が登場したという仮説は、なかなか趣があると思います。
6 生物の興亡ーー絶滅と進化
生物の大進化は大絶滅を伴うのが普通です。地球上の酸素濃度が高まり真核生物が登場したときには、嫌気性のバクテリアたちが死滅しました。カンブリア大爆発の前にはやわらかい生物たちが死滅しています。
カンブリア紀以降にも気候変動などが原因と見られる大量絶滅事件が数回起きていますが、中でも「ペルム紀大絶滅」(約2億5000万年前)は生物種の9割以上を絶滅あるいは大幅に減少させたとされる大事件でした。
その直後に地球上に現れたのが、恐竜です。
恐竜は約2億3000万年前に登場し、約1億5000万年に渡って陸上を支配しました。
恐竜の特徴といえば大きさです(小さい恐竜もいますが)。恐竜には草食の系統と肉食の系統がありますが、どちらも巨大であることに違いはありません(特に巨大なものが多いのは草食恐竜のようです)。
彼らが生きたジュラ紀から白亜紀は現在よりもずっと温暖だったため、恐竜を含む草食動物たちはふんだんに育つ草木を食べ、そうして大きく育った獲物を肉食動物が食べ、という形で巨大化していったようです(おとなになると成長が止まる哺乳類と異なり、爬虫類は生きている限り成長を続けるのです)。
しかし、よく知られているように、そんな彼らは、約6600万年前に起こった最後の大絶滅事件「白亜紀の大絶滅」であっけなく滅びてしまいます。
「白亜紀の大絶滅」は、小惑星の衝突が主な原因とされています。小惑星説が唱えられる以前には、ほぼ同時期に発生していた(現在の)インド・デカン高原付近の大噴火による気候変動を原因とする説が有力であったようですが、近年、隕石衝突説の方に有利な証拠が蓄積されて来ているもようです。
ただ、小惑星の衝突がなければ恐竜は絶滅しなかったのかというと、それには疑問符がついているようです。化石試料の分析により、恐竜は「大絶滅」以前(約7600年前)からその多様性を低下させていたことが明らかになっているからです。
https://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/13731
たしかに「大絶滅」とはいえ、すべての生物が滅びたわけではなく、哺乳類やその他の動物は(数を減らしたとはいえ)生き延びましたし、恐竜の中でも鳥類に進化したものは現代まで生き延びています。小惑星衝突が決定打になったにせよ、恐竜の絶滅には固有の要因があったと考えるのが合理的でしょう(「大きさ」ですよね?)。
恐竜絶滅によって有利な立場を得たのは哺乳類でした。哺乳類は、恐竜が現れた直後の2億2500万年頃に登場し、長らく恐竜と共存していましたが、恐竜絶滅後の空白の中で多様な進化を遂げて地球上に広がり、やがて人類を生み出すことにもなるのです。(つづく)