比較的貧弱な身体能力にかかわらず地球上の食物連鎖のトップに君臨する生物。他の生物と同様に自然界(宇宙)に存在するが、発達した大脳機能を駆使して脳内に「社会」という疑似的な宇宙(宇宙内宇宙)を作り上げ、主としてその中で生活をする点に最大の特徴がある。
人類が「社会」の形成を始めたのは約70000年前である。言語的コミュニケーション、抽象的思考に基づく文化的営為、高度な技術を用いた生態系への介入等を特徴とする種としての人間は、この時期に誕生した。以後の遺跡に見られる大型動物の狩猟、埋葬、身体装飾、象徴(記号や絵)の痕跡は、精神的(感情的・霊的・知的)な絆で結ばれた共同体が構築され始めたことの証である。
*「70000年」の数字は南アフリカのスティルベイ文化(約72000年前)に依拠しています。埋葬等の痕跡で知られる遺跡にはもっと古いものもありますが(スフール(Skhul :12-10万年前)やカフゼー(Qafzeh(約95000年前))、私の手元にある本には、それらの遺跡に見られる埋葬等の痕跡はより新しい(6万年前以降)と書かれています(『人類史マップ』日経ナショナルジオグラフィック社・2021年)100頁)。いずれにしても、年代は今後の研究で変わる(遡る)可能性が大いにあると思います。

https://kids.britannica.com/students/article/Blombos-Cave/606844
人間が作り出した高度な社会や文化は、直立歩行に由来する身体的特徴(発達した大脳、上肢(手と腕)の自由な使用)と関連づけて捉えられることが多い。しかし、人類は、直立歩行に適した身体と大きな脳を持つ生物として登場した後も長い間、文明とは無縁の暮らしを送っており(ホモ・ハビリスの登場は約240万年前、ホモ・サピエンスは約20万年前)、人類の「人間化」の直接的な原因を直立歩行(脳の大きさや手の使用)に求めるのは無理がある。
*ホモ・ハビリスは現時点で確認されている最初の人類(ホモ属)。頭蓋の容量は500-700㎤であったとされる。ホモ・サピエンス(現生人類)や同時期に存在していたホモ・ネアンデルタレンシス(いわゆるネアンデルタール人)の頭蓋容量は約20万年前の時点で1400㎤を超えていた。
*なお、本記事では、「人類」はホモ属(ヒト属)の生物を指し、「人間」は約70000年前に「人間化」を果たした以後のホモ・サピエンスを指すものとして用いる。
人間への飛躍をもたらした究極的な原因や機序を特定することはできないが、火山の巨大噴火が引き起こした寒冷化や最終氷期の開始といった気候変動と関連づける有力な仮説が存在し、魅力的である。こうした仮説に依拠した場合、人類の「人間化」は、種としての生存の危機に追い込まれた人類が、その克服のために、社会化と精神性(感情・霊性・知性)の開花を同時に成し遂げた結果として説明されることになる。
*インドネシアのトバ火山の巨大噴火(による寒冷化)は70000-75000年前、最終氷期の開始は約70000年前。
「人間は考える葦である」(パスカル)「われ思う、故にわれあり」(デカルト)等の語に顕著なように、近代文明は精神性を人間の「個」性(や個人の尊厳)の源と捉える強い傾向を持っている。しかし、精神性が(種としての)人間の生存のために担った役割を省みれば、その主要な機能が仲間との絆の構築にあることは疑いない。生存可能性を高めるために人間が開発した特異的な能力は「信じる力」(虚構を真実として共有する能力)の方であり、疑う力(自由に考える能力・批判的思考力)はその裏面にすぎないという想定すら成り立つであろう。
人間の集団が共有する観念や物語は、総じて、生物(とくに動物)にとって本源的な感情や欲求(死の恐怖、食餌・生殖への欲求、仲間を求める感情等)を増幅・誇張する内容となっており、生物の自然的欲求を(大脳機能によって)集団的に増幅することで生成される一種の「危機意識」の共有が人間の生存戦略であることをうかがわせる。
この生存戦略の副作用として、生物としての自然的欲求と大脳の増幅・誇張機能によって得られた欲求を区別することが困難となった人間は、つねに過剰な欲求をいだき、欲求を満たそうとすると往々にして自然の矩を超えてしまうという難儀な運命を抱え込むこととなった。
他の生物種との競争に圧勝した人間は、地球上(の陸地)に最も広く分布する生物として繁栄したが、個体数の増えすぎ、および、「社会」の論理への過剰適応により、1️⃣人間間の争い、2️⃣人間の介入による自然界への負荷 がいずれも制御困難となり、自然の生態系全体を危機に晒すに至っている。
- 人間の特徴は「社会」の構築
- 人類が人間になったのは約7万年前
- 種としての生存の危機を克服するための「社会化+精神性の開拓」か
- 精神性(感情・霊性・知性)の第一の機能は絆の構築
- 危機意識の共有という生存戦略のために、人間はつねに自然的必要性を超えた過剰な欲求を抱えることになった
- 個体数の増えすぎと「社会」への過剰適応が、生態系の危機をもたらしている